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東京高等裁判所 平成10年(ラ)143号 決定 1998年9月14日

抗告人

株式会社コスモジャパン

右代表者代表取締役

加賀谷亮悦

抗告人

奥村洋

抗告人

香取政男

主文

一  本件各抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告の趣旨

各原決定を取り消し、東友興発株式会社に対する売却を不許可とする裁判を求める。

二  抗告の理由

各別紙執行抗告状(写し)記載のとおりである。

三  当裁判所の判断

1  抗告人株式会社コスモジャパンの申立てについて

(一)  本件競売記録によれば、原審は、平成五年六月一七日、原決定別紙物件目録記載の物件(以下「本件不動産」という。)について競売開始決定(債権者株式会社住友銀行〔以下「銀行」という。〕、債務者有限会社伊賀六商事、所有者抗告人奥村清。以下「本件」という。)をし、同日その旨の差押登記をし、平成八年五月二〇日最低売却価額を一億〇二三四万円(評価人伊藤親男作成の平成五年一〇月六日調査にかかる、同七年七月二六日提出の評価書の評価額は一億三二三四万円、平成九年八月二五日提出の補充書の評価額では九〇一〇万円)と定め、平成八年五月二〇日民事執行法一八八条・六三条一項に基づき、銀行に対して無剰余(銀行に優先する抵当権者住銀保証株式会社〔以下「住銀保証」という。〕の債権二億八〇〇七万円であった。)の通知をしたこと、銀行は、平成八年五月二八日、同年六月二〇日まで競売手続の取消しの猶予を申し出たが、同条二項但書の剰余の見込みのあることの証明、自己買受の申出と保証提供をしなかったこと、抗告人コスモジャパンは、平成五年四月一日付け譲渡担保を原因とする同年七月五日その旨の登記を了し、平成七年二月一六日譲渡担保権の実行による清算手続により確定的に目的物件の所有権を取得したとしていること、住銀保証は、平成八年六月四日、本件不動産に設定した抵当権(昭和六一年三月三日設定登記及び同年一〇月一日設定登記のもの外二件)に基づき本件不動産について不動産競売を申し立て、東京地方裁判所は、平成八年六月六日に競売開始決定(いわゆる二重開始決定。平成八年(ケ)第二一六四号不動産競売事件。債権者住銀保証、債務者抗告人奥村、奥村窈子、所有者抗告人コスモジャパン。以下「別件」という。)をし、同月七日その旨の差押登記を経たこと、別件の申立てに際し、住銀保証は、同抗告人に対し、民法第三八一条に基づく抵当権実行通知をしなかったこと、同抗告人は、右通知を受けていないことを理由に別件の競売開始決定取り消すこと、本件の競売手続を民事執行法一八八条・六三条二項により取り消すことを求めて執行異議の申立てをしたが、東京地方裁判所は、平成九年一二月五日右申立てを却下し、原審は、本件不動産について、平成九年一二月二二日、最高価買受人に価額一億三〇〇〇万円で売却許可決定(原決定)をしたことが認められる。

(二)  同抗告人は、別件(後行事件)の申立てをした住銀保証が、同抗告人に対し民法三八一条に基づく通知をしていないから、別件の競売手続には重大な違法があり、別件の競売開始決定は取り消されるべきものであること、それに伴い本件競売手続は無剰余により右取り消されるべきものであるにもかかわらず取り消すことなく本件不動産の売却を許可した原決定は、売却の手続に重大な誤りがあると主張する。

抵当不動産につき所有権等を取得した第三取得者(滌除権者)がいるときは、一般的に、抵当権者は、競売申立に当たり、滌除権者である右第三取得者に対して担保権の実行を通知することを要する。しかし、これは第三取得者を保護するための制度であるから、第三取得者が、不動産について既に競売手続が開始されることによって抵当権者による換価権行使の意思が明確になっていることを知りながらあえて競売対象の不動産を譲り受けた者であるような場合にまで適用されなければならないとはいえず、そのような場合には、仮に通知を受けないことによって第三取得者が滌除権を行使する機会を失ったとしても、右通知をしなかったことが違法であるとまではいえない。

本件のように、銀行の抵当権実行による競売申立てと住銀保証の優先抵当権実行による競売申立てとが競合し、二重競売開始決定がなされ、先行する本件競売手続が続行されている場合には、先行手続と後行手続とは一体の手続とみなされ、相互の間に手続相対効を認める必要はないから、住銀保証が抗告人に対して抵当権実行通知をせずに競売の申立てをしたとしても、第三者取得者に改めて滌除権行使の機会を復活させるべきいわれはないから、別件の申立ての違法を口実に原決定の効力に影響を及ぼす重大な手続違背があったと解するのは相当でない。

2  抗告人奥村の申立てについて

抗告奥村は、要するに、本件競売手続は無剰余によって取り消されるべきであると主張する。しかし、民事執行法一八八条・六三条二項は、優先債権者に対し、その有する換価権行使の時期選択の利益を保護するための規定であって、所有者を保護するためのものではない。売却手続が取り消されることによって結果的に所有者が何らかの利益を得るとしても、それは反射的な利益に過ぎないというべきである。したがって、本件不動産の所有者である抗告人は、右事由を抗告の理由としてでは本件売却許可決定の取消しを求めることはできないというべきである。

3  抗告人香取の申立てについて

同抗告人の主張のうち、物件明細書の記載の不備をいう部分は、物件明細書は占有者と買受人との間の法律関係を確定するものではないから、占有者である同抗告人は右事実を抗告の理由とする利益がなく、法一八八条・六三条二項違反をいう部分については、右規定の法意は右2で説示したとおりであり、占有者の受ける反射的利益にすぎないから、占有者である抗告人香取は、右事由を抗告の理由としてでは本件売却許可決定の取消しを求めることはできないというべきである。

4  よって、本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鬼頭季郎 裁判官池田亮一 裁判官廣田民生)

別紙抗告状<省略>

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